破産等を理由とする契約解除は消費者契約法により無効! ~賃貸住宅事業者・㈱明来に対する差止請求控訴審判決(一部逆転勝訴判決)~
2013.10.17(No.10000403)
賃貸住宅事業者の(株)明来に対して、借主が家賃を滞納した場合、連帯保証人に契約を解除させたり、室内の家財道具を撤去させるなどができる、いわゆる『追い出し』契約条項の使用停止などを求めた差止請求訴訟の控訴裁判の判決言渡しが、2013年10月17日に大阪高等裁判所でありました。

以下、判決に対するKC'sの明来差止訴訟弁護団コメント

破産等を理由とする契約解除は消費者契約法により無効!
~賃貸住宅事業者・㈱明来に対する差止請求控訴審判決(一部逆転勝訴判決)~

 KC’sが、賃貸住宅事業者である株式会社明来(あき)に対し、消費者契約法により無効とされる契約条項の使用差止を求めていた訴訟の控訴審で、2013年10月17日大阪高等裁判所第2民事部(河邉義典裁判長)は、明来が賃貸借契約を無催告で解除できると契約条項で定める解除条項(無催告解除条項)のうち、賃借人に後見・保佐開始の申立てのあった場合についてのみ当該条項の使用差止を認めた第1審・大阪地方裁判所・2012(平成24)年11月12日判決(第4民事部)を変更し、賃借人に後見・保佐開始の申立てがあった場合だけでなく、賃借人に「破産・民事再生、競売・仮差押え・仮処分・強制執行の決定」があったとき無催告の解除権を認める条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして、消費者契約法10条により無効であり、当該条項の使用を差止める一部逆転勝訴判決を言い渡しました。
 判決は、賃借人に賃料支払義務の債務不履行がないのに、賃借人について破産・民事再生や競売・仮差押え・仮処分・強制執行が決定されたからといって、契約当事者間の信頼関係が破壊されたと評価するのは困難であり、かかる場合に無催告で賃貸借契約の解除を受ける賃借人が被る不利益は大きいと判断しています。
 また、賃借人に後見・保佐開始の申立てがあった場合に無催告解除を認める賃貸借契約の条項が有効である、と主張する明来の附帯控訴についても、これらの事情はおよそ賃借人の経済的破綻とは無関係であるとして、附帯控訴を棄却しました。
 消費者である賃借人が後見・保佐開始の申立てを受けたり、破産・民事再生を申立てたり、仮差押え・仮処分・強制執行・競売等を申立てられただけで、賃料の支払いを怠ってもいないのに、何らの催告もなく、直ちに賃貸借契約を解除されて生活の本拠である住まいを奪われ、住居からの退去を強制されることは、賃借人の生活の基盤を不当な理由により掘り崩すものであって、決して許されるものではありません。
 今回の大阪高裁の判決が、明来のこのような不当な無催告解除条項を消費者契約法10条に違反して無効であるとし、その使用差止を認めたことは、かかる条項による不特定多数の賃借人に対する同条項を理由とした解除・明渡を許さないことを意味し、賃借人の居住権を確保する上で極めて重要な意味を持つ、画期的な判断であるといえます。
 他方で、今回の大阪高裁の控訴審判決は、賃料を滞納した場合に、賃貸借契約の解除権・明渡の代理権・室内動産の処分権を第三者(連帯保証人や家賃債務保証会社)に付与する条項、家賃を滞納した場合に家賃債務保証会社が賃借人の承諾なく施錠・立入・明渡・室内動産の処分をしたとしても異議を述べないとする条項、賃借人と連絡がとれない場合に鍵交換等を行うことができるとする条項に対する使用差止請求については、いずれも明来がこうした条項を使用する「おそれ」(消費者契約法12条1項)がないとして、KC’sの請求を退けました。
 また、その他、KC’sが消費者契約法に違反するとして、その使用の差止を求めていた、①賃貸借契約が解除された後に賃借建物の明渡が遅れている場合に、賃借人は遅れた期間について家賃相当額の2倍の違約金を賠償しなければならないとする条項、②賃借人が賃料を滞納した場合には、滞納1回毎に3,150円の催告手数料を滞納賃料に上乗せして支払わなければならないとする条項、③賃貸借契約終了・明渡時に定額のクリーンアップ代を支払わなければならないとする条項については、いずれも消費者契約法により無効とはいえないとしてKC’sの訴えを退けました(原判決の棄却判断を支持して控訴棄却)。
 以上のように、賃貸借契約において、賃料滞納があった場合に、訴訟提起・強制執行手続などの法的手続がないまま賃借人を追い出す行為や、原状回復などをめぐるトラブルが多発する原因に対してメスを入れなかった本件控訴審判決については、消費者契約法が不当な契約条項の効力を規制し、その使用の差止請求を適格消費者団体に認めた趣旨を十分に理解しない、不十分なものと批判せざるを得ません。
 今後も、KC’sは、本件で相手方となった明来のみならず、賃貸住宅事業者に対し、本判決が無効と判断した契約条項(無催告解除条項)を使用しないよう求め、引き続き、賃貸住宅契約における賃借人の権利が不当に侵害されることのないよう、注意を払っていきたいと考えています。