双方向コミュニケーション研究会10周年記念シンポジウムを開催しました
2020.11.16(No.10001044)

講師:河上正二教授
 2020年11月4日(水)13時30分より、KC’sが主催する双方向コミュニケーション研究会(以下「研究会」といいます。)の10周年記念シンポジウムがZoomで開催され、140名を超える参加がありました。飯田秀男KC‘s副理事長が司会を務めました。冒頭、研究会の座長である片山登志子KC’s副理事長から挨拶と講師の紹介があり、続いて河上正二青山学院大学教授が「消費者と事業者の双方向コミュニケーションのために」と題して基調講演を行いました。
 河上教授は、いわゆる「消費者志向経営」を目指す事業者と消費者や専門的消費者団体が目指すゴールは、ともに「安心・安全で良質な市場」であること、事業者の心意気がきちんと相手に伝わったとき、人々はその 事業者の「道徳的気高さ」を支持することになることが述べられました。
 また、消費者団体は、敵対的な態度だけではなく、よき事業者に協力をしてもらって、お互いに開かれたプラットフォームで議論をするところに大きな役割があるのではないか。相互監視ではなく、相手の行動の背景や事情に気づき、相互理解を深める中で、相互信頼を培う。その相互信頼こそが市場倫理というものを維持していく大きな力になる、との提起がありました。
そして、自分のやり方だけが正しいと考える「独善者」、金で問題は片付けられるとする利己的な「拝金主義者」、これらの人とはコミュニケーションは取りづらい。自分が相手あるいは他者のために何がしてあげられるかと考えてみる。この問いと答えの往復が、おそらく、人、もっと言えば普通の消費者や事業者、それぞれを成長させることになるのではないか、との問題提起がありました。
 最後に、消費者と事業者の双方向コミュニケーションを行っていく上で必要なキーワードとして、 
 ①共通の課題=問題意識を共有化できるか 
 ②共通の言語=インターフェイスが必要
 ③最初の鍵=一歩を踏み出す勇気
 ④ほどほどの距離感=相手との一体感を望んではだめ
以上の指摘がありました。
 基調報告の後、10分間の休憩があり、再開後、研究会の2019年度の活動の報告を元山鉄朗KC‘s事務局長が行いました。その後、片山座長をコーディネーターとして、河上教授、古谷信二氏(株式会社湖池屋お客様センター)、宮本雅宏氏(食品産業中央協議会企画部長)西島秀向氏(京都府生協連会長理事、前消費者支援機構関西理事・ 事務局長)によるパネルディスカッションが行われました。
 古谷氏からは研究会での実践で「製品の不具合で企業に電話をされたことがありますか?」と質問すると、第一声が「え?異物と一緒に捨てて、その後は絶対買わない。メーカーには電話しない。なんでそんな手間かけんとあかんの。」と言われたことが大きな気づきとなったこと、その気づきから消費者対応部門だけでなく、社内へ「伝わる」ためにイントラの活用や、社員一人ひとりにメールマガジンを配信していることが語られました。
 宮本氏は、2019年度の研究会で使用した資料を基に食品ロスの現状について報告をし、消費者と双方向コミュニケーションを行うことによって理解を得、行動に移していくことにより、初めて物流や流通を含めたフードサプライチェーン全体で改善が図られていく、ということを実例を交えながら報告されました。
 西島氏は、差止請求活動をする中で、なぜ契約条項や勧誘・表示が消費者視点を考慮されずに実施されてしまうのか。その裏には消費者と事業者の双方向でのコミュニケーションが不足していたのではないかという問題意識をそもそも持っていた。消費者の権利を実現していくために、消費者の権利が尊重される事業者とは、積極的にコラボレーションを進めていくことを志向してきた、と研究会の設立の経過を語っていただきました。
 河上教授は、双方向コミュニケーションの活動は一朝一夕には実現できないが、じわじわと広がっていくことを期待している。お互いの話を聞くときに権威的な態度をとってはいけない。思いの丈を語っていただくためには場を整える側の努力と専門的な知識も必要で、それが消費者団体の役割になるのではないか。今日のような会議がどこでもやれるようになればいい。自立と尊厳を認められて、自ら考える消費者になることが望まれる、とのアドバイスがありました。
 片山座長から多くの消費者団体がアダプターになることに期待したい。もし実践の方法や関心を持たれたらぜひ事務局までご一報いただきたい、とのまとめがありました。
 最後にKC‘sの藤井克裕理事長から挨拶と河上教授、パネリストの皆さんへのお礼と今後の活動の決意の表明があり、閉会となりました。
関連記事:10001028, 10001039