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1 はじめに
KCʼs NEWS 1月号でもお伝えしたとおり、KCʼsが原告となって、大手の家賃債務保証業者であるフォーシーズ株式会社(以下「フォーシーズ」といいます。)に対し、消費者契約法に基づき契約条項の差止や契約書ひな形の廃棄等を求めていた裁判の最高裁判所の判決が、2022年12月12日に言い渡されました。
最高裁判所は、KCʼsが差止を求めていた契約条項について、消費者契約法10条により無効と判断し、2016年10月24日の大阪地方裁判所への提訴から6年を経て、KCʼsの勝訴という結果でこの裁判は決着しました。
大阪地方裁判所への提訴時から原告弁護団の一員として関わってきた弁護士として、改めてこの裁判を振り返りながらご紹介したいと思います。
2 最高裁判決で問題となった契約条項
フォーシーズは、建物の賃貸借契約に際して、賃貸人、賃借人との三者契約の形で、「住み替えかんたんシステム保証契約書」により契約をしていました。この契約書の条項のうち、KCʼsが問題と考え、最高裁判所が消費者契約法により無効と判断した契約条項は、次の2つです。
①賃借人が、賃料、管理費・共益費等と光熱費等の変動費の合計額で家賃の3か月分以上の支払いを怠ったときは、債務保証業者であるフォーシーズが、期限を定めて支払うように催告をすることなしに賃貸借契約を解除することができるという条項(以下「①の条項」といいます。)
②賃借人が、賃料、管理費・共益費等の支払いを2か月以上怠り、フォーシーズが合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況のもと、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件の建物を相当期間利用していないものと認められ、かつその建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看守できる事情があるときには、賃借人が明示的に異議を述べない限り、建物の明渡しがあったものとみなすことができるという条項(以下「②の条項」といいます。)
この②の条項によって明渡しがあったものとみなされると、その後の別条項によって、フォーシーズが、賃借物件の建物に置いてある賃借人の家財道具等の動産類を搬出、保管し、搬出から1か月以内に引き取りがなければ処分をすることが可能となり、また賃借人はそれらの行為について異議を述べることができないとされていました。
3 KCʼsはなぜこれらの条項が問題だと考えたか
賃借人に一見賃料等の不払いがあるように見えても、賃貸人と賃借人の関係性等の個別事情から、賃貸人が賃貸借契約を解除しないことは一般的に珍しいことではありません。しかし、①の条項があることによって、不払い賃料を肩代わりすることになるフォーシーズが、賃借人からの回収不能という自社の損害をなるべく少なくするという観点から、①の条項に定める要件を形式的に満たしただけで、民法では必要とされる催告もせずに、容易に賃貸借契約を解除することが可能になり、その結果、賃借人の生活基盤が失われることになります。
また、②の条項は、まだ賃借人が賃貸物件の建物を占有(使用)している場合でも、賃借人から明示で異議を述べない限り、フォーシーズの判断で、その中にある家財道具等の動産類を運び出したり処分したりできるという内容であり、これは違法行為である「自力救済」の実行を認めるに等しいものでした。
家賃債務保証業者を選定するのは賃貸人で、賃借人の側で業者を選択したり、契約条項の変更を求めたりすることは、現実的には困難です。①、②の条項は、このように選択や交渉の余地がない状態の賃借人が、賃貸借契約に際して予め合意を余儀なくされるものであることから、なお問題であると考えました。
4 裁判の経過
一審である大阪地方裁判所の判決は、2019年6月21日に言い渡されました。その内容は次のとおりです。
①の条項について、この条項は、過去の最高裁判所の判決が適法と認めた「催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情」がある場合に、催告をせずにフォーシーズが契約を解除できることを定めたものと解釈し、消費者契約法10条の要件は満たさないと判断しました。賃貸借契約の当事者ではないフォーシーズに解除権を認めることについても、上記のように①の条項を解釈すると、この条項が適用される場合には、賃貸人も催告なしに賃貸借契約を解除できるのであるから、賃借人にとって格別不利益なものとはいえないなどとして、消費者契約法10条の要件は満たさないと判断しました。
これに対し、②の条項について、この条項が適用されることによって、まだ賃貸借契約が終了しておらず賃借物件の建物に対する賃借人の占有が失われていない場合でも、フォーシーズや賃貸人が建物内の動産類の搬出等を行うことができることとなるが、このような行為は、自力救済として不法行為にあたる。それにもかかわらず、賃借人が異議を述べられなくなるのは、事業者の不法行為による損害賠償責任を全部放棄させる趣旨を含むため、消費者契約法8条1項3号によって無効と判断しました。
この一審判決に対しては、フォーシーズとKCʼsの双方が控訴しました。
控訴審である大阪高等裁判所の判決は、2021年3月5日に言い渡されました。その内容は次のとおりです。
①の条項について、フォーシーズに催告なしの解除権を認めている点は、民法の定めに比して解除できる場合を広く認めていることから、消費者契約法10条前段の要件は満たすとしました。しかし、この条項があっても、当事者間に信頼関係を破壊するものと認められない特段の事情がある場合は、判例法理によって解除は認められず、また、一審と同様に、この条項は「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」がある場合には催告なしの解除も認められるという判例法理を前提として定められたものと解釈し、そのような事情がある場合に催告を受けられなかったとしても、賃借人の不利益の程度はさして大きくないとして、消費者契約法10条後段の要件は満たさないと判断しました。
賃貸借契約の当事者ではないフォーシーズに解除権を認めることについても、民法の定めに比して賃借人の権利を制限する面があるとして、消費者契約法10条前段の要件は満たすとしましたが、賃借人の賃料等の滞納が続く場合、家賃債務保証業者が、経済的負担の増大回避のため自ら賃貸借契約を解除できるとすることには相応の合理性があるのに対し、賃借人が受ける不利益は、賃貸人から賃貸借契約を解除される場合に比して必ずしも大きいとはいえないとして、消費者契約法10条後段の要件は満たさないと判断しました。
②の条項については、自力救済を実行する趣旨を含むものと解することはできないと判断しました。その上で、消費者契約法10条前段の要件は満たすとしたものの、この条項が適用される場合には、賃借人は、賃借物件の建物内にある動産類については、占有権だけでなく所有権も放棄する意思を有するか、少なくとも処分等をされてもやむを得ないとの意思を有していると考えられ、賃借人が受ける不利益は大きくないとして、消費者契約法10条後段の要件は満たさないと判断しました。
控訴審の判決は、KCʼsが問題と考えた条項をいずれも有効と判断するもので、全面的な敗訴でした。そこで、KCʼsから上告受理申立をしました。
5 最高裁判所の判断
控訴審の判決から約1年9か月を経て、最高裁判所は判決により、次のような判断を示しました。
①の条項について、文言上、一審や控訴審の判決が示したような限定は加えられていないことを前提に、消費者契約法に基づく差止請求訴訟において、一審や控訴審のような限定解釈によれば、解釈に疑義の生ずる不明確な条項が有効なものとして使用されるため、かえって消費者の利益を損なうおそれがあり相当ではないとしました。その上で、賃貸借契約の当事者でもないフォーシーズが、その一存で何らの限定なく賃貸借契約を催告なしに解除できる条項であることから、消費者契約法10条に該当し無効と判断しました。
②の条項については、賃貸借契約が終了していない場合でも、フォーシーズが賃借物件の建物の明渡しがあったものとみなすことができる条項だと解釈し、この条項が適用されると、賃借人は賃貸借契約の当事者でもないフォーシーズの一存で、建物の使用収益権が一方的に制限され、法定の手続によることなく明渡しが実現されたのと同様の状態に置かれ著しく不合理であるなどして、消費者契約法10条に該当し無効と判断しました。
6 最高裁判決の意義と判決後の動き
最高裁判所の判決は、フォーシーズに対するだけでなく、①、②の条項と同趣旨の契約条項を使っていた家賃債務保証業者に対しても、今後その契約条項の使用を控える等の見直し対応を促すものであるところに意義があります。消費者は、事業者所定の契約条項を必ずしも理解できていなかったり、内容変更について交渉の余地がなかったりするため、家賃債務保証業者に契約条項の見直しを迫ることは、消費者保護に資するものです。
最高裁判所の判決を踏まえ、KCʼsは、国土交通大臣、一般社団法人全国保証機構、家賃債務保証事業者協議会に宛てて、登録ないし会員の家賃債務保証業者に対し、①、②の条項のような契約条項が消費者たる賃借人との間で締結される保証委託契約書に設けられていないかどうかを調査し、当該条項を保証委託契約書から削除するように指導すること等を要望しました。
フォーシーズは、最高裁判所の判決を受けて契約条項を変更しました。(KCʼsからの問合せ及びフォーシーズからの回答は、KCʼsのホームページに掲載しています。)また、同社ホームページの2023年2月20日付けのお知らせによれば、2023年4月末日をもって「住み替えかんたんシステム」契約の新規申込み受付は終了するとされています。